帰りますよ

7月24日からの出張もあとわずか。16日に帰ることになった。突然の事態に困惑しながらも、どうにかこうにか持ちこたえた。今は後任と引継ぎを行っている。

この3ヶ月間は自分に考える時間を与えてくれた。自分のこと、家族のこと、会社のことなどなど。
忙しさで見失っていた自分の会社の性質を外の世界から見ることにより、落胆させられた3ヶ月。希望という言葉は微塵も感じられない。

上辺だけのきれいごとの言葉を並べ、一人の人間を強制的に送り込み、その後は知らん顔だ。報酬も昇進も何も無い。
サラリーマンの労働対価は賃金と昇進だと思う。いや、それしかないはずだ。
緊急対応とはいえ、自分、自分の家族、自分の仕事の全てを犠牲にした。それがどんなものなのか、会社はわかったフリをしているが、何もわかっていない。

僕は一生治らない病気を抱えている。脳下垂体機能低下症という。
ホルモンの分泌が無いので、体がだるい。いずれは骨粗鬆症にもなる恐れがある。なので4週に一度の注射を欠かすことはできない。
この病気のことは社長に直に伝えてある。それでも会社は俺に無理をさせた。死んだ人間の仕事の後処理を行う人間も、仕事さえ無事に遂行すれば死んでもらって構わないと理解するしかない。

何で俺だけなのか? 会社には他にも100名以上の従業員がいるのに何で俺だけなのか?
理由は簡単。今すぐに海外で仕事が出来る技量があるのはこの会社には自分しかいないからだ。他の人間の仕事は俺にも出来る。俺の仕事は他の人間には出来ない。ならばそれなりの賃金と昇進を要求するのは当然だ。
しかしそれが出来ない。年功序列制度が邪魔をする。
能力が無いまま社歴を重ねただけの人間が順番待ちをしている。彼らをゴボウ抜きさせることはできないとハッキリと言われた。

バカバカしいので、もうこの会社を去ろうかと考える。自分を殺して順番待ちの列に並ぶことは自分にはできそうもない。
しかし年齢は38だ。転職は容易ではない。出来たとしても条件は厳しいものだろう。
4月に子供が産まれた。この子と妻を不幸にしてはならない。父として、夫として、男として決断が下せない自分の甲斐性の無さが最も腹立たしい。