<<決戦レストラン>>
閉ざされたカーテン。外に光は漏れていない。
棚には磨き上げられた食器やグラスが整然と積み重ねられ、部屋のわずかな明かりに反射してぼんやりと光っている。ここは場末のレストラン。
ロウソクの灯りが晧晧と照らす木製のテーブルに、黒縁眼鏡に七三分けの中年サラリーマン男と、髪をぼうぼうと伸ばして不精髭を生やした若い男が向かい合って座っている。他に客はいない。
二人は先ほどまで激しく言い争いをしていたらしく、その余韻がまだ残っている。
握りしめた拳をテーブルの上に置き睨み合っている二人。柱時計の音だけが静寂な部屋の中を響き渡る。
(ポッポ、ポッポ)
午前8時だ。
二人の前には、それぞれ、目玉焼きが一皿ずつ。
サラリーマン男は若い男から視線をそらし、しばらく厳しい表情で考え込んでいたが、やがて意を決したようにこう言った。
「議論だけではいつまでたっても埒があかない。実践だ。実践で君の理論の誤りを証明してみせる。」
そう言うと、サラリーマン男は目玉焼きに醤油を垂らし、半熟の黄身を潰し、白身に絡めて頬張った。
「これだ、これ。トロトロの黄身と醤油と白身のハーモニー。若造はわかっちゃいない。」
若い男は足を組んでその様子を覗っている。不精髭に包まれた彼の口元が微かに動く。ニヤリと笑いながら、目の前の目玉焼きにコショウを振りたくった。
「ケッ、醤油なんかで食う奴は愚か者だ。」
黄身の部分を綺麗に取り、白身の部分から食べ始め、最後にお楽しみの黄身を食べた。
「黄身は黄身。白身は白身。それぞれの素材を味わないと、玉子に対して失礼だ。」
実践を終えても双方相譲らず、主張は平行線を辿ったまま。
そこへ間を割るようにレストランのウェイトレスの声。
「お下げしてよろしいですか?」
「はい、ごちそうさまでした。」