<<回転寿司>>
俺には馴染みの寿司屋がある。
といっても、当然、回っているが。
小綺麗な店内。
愛想の良い店員。
新鮮なネタ。
メニューの豊富さ。
そしてリーズナブル。
回転寿司は自分のためにあるのではないかと思ってしまう。
俺が一番好きなネタは玉子だ。
最初はその玉子に手を伸ばす。
一貫を一気に口に運ぶ。至福の瞬間。うまい。旨い。美味い。
次にシーチキン巻き。そして玉子。
更に納豆巻き。そしてまた玉子へ。
そう、これらにはわさびが入っていないからだ。
俺はわさびが嫌いなのだ、どうしようもなく。
からしも七味唐辛子も大丈夫なのだが、わさびだけはどうしてもダメなのだ。
では、海鮮ネタは食べられないのかと問われれば、そんなことはない。
たこも大好きだ。いかも大好きだ。まぐろもえびもかんぱちも大好きだ。
でもわさびは大嫌いだ。
しかし、しかしだ。『さび抜き』という素晴らしい手法が俺の寿司ライフをビューティフルにしてくれる。
「いか。さび抜きで」
「あいよ!」
「びんとろ。さび抜きで」
「あいよ!」
「えんがわと、えびと、赤貝。さび抜きで」
「あいよ!」
ある時、家族4人連れが俺の左隣に座った。
左から、お父さん、息子、娘、お母さんの順に。
とても仲が良さそうな一家。ニコニコ顔の子供たち。美人なお母さん。
微笑ましい、実に微笑ましい。
「寿司ってやっぱイイよねぇ〜」と、語りかけたくなるくらい微笑ましい。
しかし、俺は次の瞬間、驚愕のシーンを目の当たりにしてしまった。
何たることか、小学校高学年と思われる息子の方が、
「ウニとイクラ!」
カウンターに座るなり、いきなり400円クラスのネタを注文する。
「(けっ、お前らはこんなとこに来るんじゃねーよ。普通の寿司屋に行け!)」
俺はそんな言葉を口に出そうしたが、どうにか踏みとどまった。
400円の金色の皿にのったウニを食べているガキの横で、俺は青い皿のプリンを取った。
もちろんプリンには醤油をかける。不思議なことにこれでウニの味になるのだ。
続けざま、今度は小学校中学年と思われる娘の方が、
「すいません、大トロください。わさび多めで。」
ウニ味を堪能している俺の手がワナワナと震え始めた。
大トロなんてのは、テレビの中でタレントが美味そうに食うための寿司ネタなのだと思っていたが、こんな間近で、しかもこんなガキが。
いや、それだけでもじゅうぶんショッキングなのだが、俺をどん底に叩き落したこのセリフ。
「わさび多めで。」
あなたは何歳なの?
俺は28歳だ。
そうだ、俺はおこちゃまだ。
押し寄せるショックの波に身を任せながら、俺は流れてくる玉子の皿を一心不乱に取りまくった。
見事なまでに青い皿だけを20皿ほど積み重ね、
「おあいそ・・・」と俺は小さく呟く。
「うゎ、計算、楽♪」
バイトのねえちゃんの言葉が忘れられない。